急所蹴り

本当はいちばん嫌いなタイプだったのだ。
思い出した。
彼のあの辛辣さ、あの超一流のキツイ口調。
あの人前で急所を蹴りあげるように人の弱点をあげつらう残酷さ。
さすがは三田男、さすがはサッカー仕込み。

自覚はなかったけど、わたしは案外ちやほやと育てられた。
歩道を歩くときも兄は道路側を歩いて私をガードしてくれた。
バスの時刻表が読めるようになったのは、実は短大過ぎてから。
全部兄か面倒見のいい友だちがやってくれてたし。
比較的優雅な住宅街の御育ちだったら、同級生の男子はほぼ全員がいいとこのお坊っちゃん。
女子には優しい小さなジェントルマンたち。
純粋培養、天衣無縫、お嬢様育ち。
これが二十歳くらいに評された私の人物像。
それに半分自覚していたけど、男子から特別扱いされた。
可愛かったから。
さらには母からは徹底して「おんな大学」を仕込まれた。
「おんなは女優」これが母の格言。
私は常にいい子であり、教師受け最高。
道徳の時間などわたしの独壇場。
本当に道徳的な性格だったのも否めないとは思うけど、どう振る舞うべきか、何を言うべきか。
そこらの教師なんてあっさり凌駕するほどの心得は既に会得していた。
しばしば同級生が馬鹿同然に見えたものだ。
そんな私の前に現れたのが、彼だ。
驚いたことに彼は私と年齢が変わらない。
同級生かもしれない。
でも、彼を見てその仕事ぶりを見て思った。
男女では職業上の意識とか能力とか、こうも違いがでるものか、と。
いかんせん、覚悟が違うっていうか。
憧れもしたけれど、あの辛辣さには参った。
恋人はもっと甘くなくては。
ああまで辛辣だと、一緒にいて心が折れてしまう、くじけてしまう。

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