聖母マリアの憂鬱

おかしい。
彼は絶対に私を好きなはず。
それどころか狂おしい愛すら抱いているとみた。
この私の目に狂いはない。

自分史の精度の高い統計にも、彼は見事に合致した。
体育会系、知的、真面目、誠実、清潔感溢れ、それにちょっとシャイで年長者からの受けがいい。

ルックスはまあまあ中の中ってライン。

これら要素が複合的に混ざり合い、私という対象者にある日焦点が合わさるのだ。
彼が私を狙いだしたとき、ふんっと鼻を鳴らしたくなった。
またかって感じで本当に魂の底からうんざりした。

そうしたタイプに典型なのが、やたらにこちらを理想化する点だ。
まあ、さすがに互いの年齢と共に緩やかになってくるけれど、あれは辛い。
辛すぎるんだ。

まるで聖母マリア様。
あらゆる女性の美徳をなすりつけてくる。
こっちもある程度そうしたご用意もございますが、例えば自発的な性欲なんかはご法度らしい。

イメージにそぐわない。
お花でいうならカスミソウ。
犬を飼って愛でているのが最高に似合う、微笑ましい。
彼らと、ついでに母のピグマリオン。

またもや、こうした需要がご登場。
競争の原理で数は増えてくるし、崩れそうに荷が重い。
彼らを前に、憂鬱ばかりが募る。

彼ら男性にとっては些末な仕事に見えただろう。
でも私にとっては必死でつかんだキャリア構築の正念場だ。
この分の割増料金をもらえませんか?と企業に交渉したくなる。

ならばそのメリットを存分に活かさねば、イーブンにならない。
だから私は活用した。
伝票処理の方法、PCの操作方法。

仏頂面で仕事をしている合間であっても、私であれば即座に対応してくれる。
最優先。
馬鹿とはさみは使いよう。

しかし、彼はまったく使い物にならない。
利用価値ゼロってか、決してお人よしの馬鹿にはなってくれない。
それどころか、辛辣で厳しい。

あの辛辣さはどういう由来?
御気の毒に、成長過程のどこかで性格が歪んでしまったのかもしれません。
にもまして気づいたのが、彼はけっこうえげつない策略家だ。

「堅気やない」。
私は撤退することに決めた。
でも、そうすると今度は逆にアプローチしてくる。

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